重力の虹 トマス・ピンチョン

・・・<早駆け>の机はきちんとしているが、スロースロップのは乱雑きわまりない。1942年以降、本来の机の木の表面が見えるまで掃除したことがないのだ。いろんなものが机の上にぞんざいに重ねられている。ふるいに掛けられて一番底の方へまわった役所の”恥垢”(スメグマ)ともいうべきものーー無数の赤や褐色の消しゴムの屑、鉛筆の削りかす、お茶やコーヒーの汚れ痕、砂糖やハウスホールド牛乳の痕跡、煙草の灰が一杯、タイプライターのリボンから飛び散った黒いかす、腐敗した澱粉糊、粉々になったアスピリン錠剤などーーがまず基底にある。さらにあちこちに散らかったクリップやジッポ・ライターの発火石、輪ゴム、ホチキスの針、煙草の吸殻、くしゃくしゃになった煙草の箱、マッチ棒、ピン、いくすものペンの束、入手困難な薄紫色(ヘリオトロープ)や黄褐色(ロー・アンバー)まである使い残しの色鉛筆、木製のコーヒー・スプーン、はるばるマサチューセッツから母ナラインが送ってくれた”ゼイヤーの楡喉飴”、テープや紐やチョークの断片・・・さらに、それらの上に、忘れ去られたメモや使い切った淡黄色の配給手帳、電話番号、返事を書かなかった手紙、ずたずたになったカーボン紙・・・
(「重力の虹 上巻」 P.31)

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